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研究コラム

組織のつながりを育てるには #研究コラムVol.15

内部の結束と、外部との橋渡し

前回の研究コラムでは「社会関係資本」をテーマに、組織での協力行動の土台となる要素を紹介しました。

エッセンスをおさらいすると、集団の中で人々の間にコミュニケーションをともなう繋がり(社会的ネットワーク)があり、お互いの信頼感が高く、誰かを助ければ自分も報われるという互酬性の考えが共有されているときに、社会関係資本が成立していると考えることができ、助け合いや協力が起こりやすい環境となります。

所属している組織やチームの状態は、環境要因として個人の才能発揮に影響を及ぼしますし、個人の才能発揮が組織の成果やカルチャーに影響する面もあることから、組織やチームの状態を考えることは、才能発揮を研究するうえで重要な要素となります。中でもメンバー同士の協力の活発さは、その組織に所属する個人のパフォーマンスを大きく左右することから、社会関係資本は注目すべき概念だと捉えています。

今回の研究コラムでは、前回に引き続き社会関係資本をテーマに、より具体的な研究事例を紹介したいと思います。

目次

  1. 内部の結束と、外部との橋渡し

  2. ゲーム研究から見える、社会関係資本リッチな組織の特徴

  3. 感謝 ー どんな組織でもすぐにできるアクション

  4. 複雑な「人間関係」を分析するスコープ

  5. 文献

内部の結束と、外部との橋渡し

前回の研究コラムでは、社会関係資本の要素(社会的ネットワーク・信頼感・互酬性)とその効果を中心に取り上げました。次に少し視点を変えて、社会関係資本が指す「社会」の範囲について考えてみましょう。

仕事場面を考えると、同じ会社や部署の人とのコミュニケーションは自然と多くなることでしょう。社会関係資本をめぐる議論でも、組織のメンバー同士のつながりは組織の価値創出のうえで重視されます。しかし、組織単独で活動が完結することは少なく、他の部署や他社とのネットワークも無視できないものとなってきます。

このように、組織の内部 / 外部の違いに着目した分類として、「結束型の社会関係資本」と「橋渡し型の社会関係資本」と呼ばれるものがあります (Putnam, 2000)。

「結束型」は組織の内部での、特定のメンバー同士のつながりを指したものです。部下に対して信頼感を抱いたり、同僚を助ければ自分が困っているときにも助けてもらえるはずだと期待したりすることなどが含まれており、結束型の社会関係資本が強い組織では、メンバー同士のコミュニケーションや協力行動がスムーズに行われることが指摘されています(中原, 2021 など)。

もう一方の「橋渡し型」は、所属組織内に限定されない、組織を超えたつながりを指します。協業機会の多い他社の担当者はもちろん、異業種交流会やプライベートな関わりで仲良くなった人とのつながりなどが含まれます。結束型と比べてつながりは弱い傾向にあるものの、不特定多数で幅広い範囲にわたることが特徴です。

ただし、この場合の組織内外は、「この範囲より先が橋渡し型」という基準がはっきりと決まっているわけではなく、比較による相対的なものだという点にご注意ください。たとえば、社内の別の部署は、自部署を基準にすれば組織外になりますが、他社との関係で比較すると自社という組織の内部と捉えられます。

北村他(2009)の研究では、組織内のメンバーへの信頼感と、組織を超えた不特定多数に対する信頼感の両方が高いときに、メンバーの能力向上が促進されると報告されています。不特定多数への信頼感が高いことで、組織の外にも積極的につながりを求めることができ、結果として能力向上につながるというのは納得のいく説明ではないかと思います。

一方、外部に目を向けすぎるあまり、組織内部との関係をおろそかにしてしまうと、能力向上は抑制されてしまうともいえます。また、前回の研究コラムでは、社会関係資本の副作用として、よそから来た新参者が排除されることや、同調圧力が高くなり建設的な批判が起こりにくくなることを取り上げましたが、これは結束型の社会関係資本に見られやすいと考えられます。

どちらかに偏らず、内外のつながりをバランスよく育てていくことが、個々の業務能力や協力行動などの組織の力を高めていくために重要だといえそうです。

ゲーム研究から見える、社会関係資本リッチな組織の特徴

このように協力行動や能力向上と関連の深い社会関係資本ですが、これが豊かになりやすい組織や、反対に希薄になりやすい組織に特徴はあるのでしょうか?

ここで参考になるのが、オンラインゲーム内でのコミュニティを対象に、信頼感や互酬性への意識を調べた研究です(小林・池田, 2006)。

この研究で対象になっているゲームでは、プレイヤーは「クラン」と呼ばれるコミュニティを結成して、他のプレイヤーと協力してモンスターを倒していくのが特徴です。クランではコミュニケーションを取りながら共通の目的を達成するという前提があるうえに、大小さまざまなサイズのものがあったり、リーダー/非リーダーの役割の違いなども見られたりすることから、組織の特徴とメンバー同士の関係性を調べるのに適した環境となっています。

この研究では、クラン内の信頼感、つまり同じコミュニティに所属している他のプレイヤーに対する信頼感を調査し、クランの特徴との関連を調べています。

特徴的だったのは、内部の信頼感が高いと評価されていたクランでは、クランの同質性と開放性が高いという結果が得られたことです。ここでの同質性は、クラン内の他のプレイヤーと自身が考え方や行動の面で似ていると思う度合いを、各メンバーが評価したもので、開放性は、自身の所属するクランが他のクランと協力的だと思う度合いを、同様に各メンバーが評価したものです。

この結果からは、似た者同士が集まっているクランや、よそと協力的なクランでは、内部の信頼感が高いことがうかがえます。先の「結束型」と「橋渡し型」のバランスにもつながりますが、自組織の内部に閉じず、外部との関わりを積極的にもつことで、結果的に内部の信頼感の醸成につながる可能性が示唆されます。

一方、内部の信頼感とマイナスの相関が見られたクランの特徴もありました。まず、クランサイズが大きいほど、つまりクランに所属するプレイヤーの数が多いほど内部の信頼性は低いという結果になりました。また、クラン内の上下関係が強いほど、内部の信頼性が低いという結果も得られました。組織が大規模になったり、上下関係が厳しくなったりすると、メンバー間のコミュニケーションがどうしても希薄になりやすく、信頼感が醸成されにくいと考えられます。

これらの結果は、実際の組織での社会関係とも整合するように思えます。似たもの同士が集まっていて、小規模で上下関係が弱いという特徴は、創業期のスタートアップによく見られます。創業初期に関しては、同質的な人だけでメンバーを構成したほうがコミュニケーションコストが小さくなり、スムーズに事業を進められるという指摘もあります(徳谷, 2024)。

しかし、事業が進むにつれて会社の規模が大きくなったり、バックグラウンドや価値観がさまざまなメンバーが加わったりすると、どうしても創業期のような阿吽の呼吸でコミュニケーションを取れるとは限らない場面が出てきますし、社内の一体感も薄くなる方向に向かいがちです。
クランの特徴と内部の信頼感の関連から見えてきた結果は、企業をはじめとする組織が拡大する際に直面する課題を映し出しているように思えます。

感謝 ー どんな組織でもすぐにできるアクション

組織規模や多様性の拡大によって、メンバー同士の信頼感が希薄になるというのは、成長を目指す組織にとっては頭の痛い課題です。

フリーアドレス化やジョブローテーションの実施など、組織内のコミュニケーションを拡張・活性化する施策も提案されていますが、大きな組織ほど実施にコストがかかったり、効果が出るまでに時間がかかることなどがネックになります。
こうした課題に対して正木(2024)では、劇的な効果があるかはわからないがすぐに第一歩を踏み出せる取り組みとして、「感謝」に着目しています。感謝は二者間でも実施できる、とてもハードルの低いアクションですが、正木(2024)では、感謝が単なる礼儀やマナーを超えて、組織に実効的な効果をもたらす可能性が研究されています。

過去の研究からは、メンバー同士が感謝の感情や感謝を表明する行動によってより強く結びつくことで、社会関係資本の構成要素でもある信頼感や互酬性に対する意識を強められる可能性が推測されています (Fehr et al., 2017)。このように、感謝の感情や行動が個人から組織に広まっていくメカニズムについて、正木(2024)では2通りの説明を加えています。

ひとつは「情動伝染」による説明です。これは、ある個人や集団がもつ感情や態度が周囲にまるで伝染するように波及する現象のことを指します。もらい泣きや、ちょっとした小競り合いから集団の暴動に発展することなどが例として挙げられるでしょう。感謝も感情のひとつと捉えられるので、周囲に広まっていくことが考えられます。
もうひとつは、感謝の「目撃効果」による説明です。Aさんの援助に対してBさんが感謝を表明している様子を見ると、第三者であるCさんも「自分が協力してもきっと報われるので安心だ」と判断できます。この判断の結果、Cさんが他の人にも協力的に振る舞うため、周囲にも同様の影響が拡散していくというのが目撃効果による説明です。感情よりも、理性的な判断を根拠とした説明といえるでしょう。

集団のダイナミズムは複雑な現象なので、これのどちらかが正解という結論はまだ出ていませんが、感謝のポジティブな影響が広まる現象については、少なくとも感情と判断の2通りの説明がありえます。感謝を表明する行動はシンプルなので、組織規模に関わらず手軽に実践することができます。

感謝の促進によって、社会関係資本の構成要素である信頼感や互酬性の意識を高めたり、維持できたりする可能性に期待がかかります。

複雑な「人間関係」を分析するスコープ

今回の研究コラムでは、前回に引き続き「社会関係資本」をテーマにしました。

要点をまとめると、以下のようになります。

  • 社会関係資本は組織内に閉じたつながりに限ったものではない

  • 組織の規模や多様性の拡大によって希薄になる傾向にある

  • 感謝行動によって社会関係資本の要素を強化・維持できる可能性がある

前回までのコラムでも、人間関係を含めた周囲の環境が才能発揮に大きく影響しうることを取り上げてきました。「人間関係」と言うと規模感や種類もさまざまで、特に組織規模の課題の場合は、改善しようにもどこから手を着けたらいいかわからなくなりがちです。

Part13で取り上げた「人間関係次元ジョブ・クラフティング」や、前回・今回で扱った「信頼感」「互酬性」など、分類や切り口が増えることで、つかみどころのなさそうなものに糸口が見えてくるところに、学術研究を参照する意義があると思います。

社会関係資本で論点となる「つながり」については、データの取得や検証の難度が上がるため、TRC (Talent Research Center) での研究はこれからですが、才能発揮を考えるうえで避けては通れぬものになるでしょう。最新の知見にも感度を高くもちながらリサーチを進めていきたい所存です。

文献

  • Fehr, R., Fulmer, A., Awtrey, E., & Miller, J. A. (2017). The grateful workplace: A multilevel model of gratitude in organizations. Academy of Management Review, 42(2), 361-381.

  • 北村智・中原淳・荒木淳子・坂本篤郎. (2009). 業務経験を通した能力向上と組織における信頼, 互酬性の規範. 組織科学, 42(4), 92-103.

  • 小林哲郎・池田謙一. (2006). オンラインゲーム内のコミュニティにおける社会関係資本の醸成: オフライン世界への汎化効果を視野に. 社会心理学研究, 22(1), 58-71.

  • 正木郁太郎. (2024). 感謝と称賛 人と組織をつなぐ関係性の科学. 東京大学出版会.

  • 中原淳. (2021). 経営学習論 増補新装版. 東京大学出版会.

  • Putnam, R. D. (2000). Bowling alone: The collapse and revival of American community. Simon and schuster.

  • 徳谷智史. (2024). 経営中毒: 社長はつらい, だから楽しい. PHP 研究所.

▼この記事を書いた人
TRC Researcher 江川 伊織
山形県酒田市出身。東京大学大学院にて性格心理学を専攻、完全主義の認知特性を研究。ベンチャー企業にて、若手研究者のキャリア開発や、研究プロジェクトの立ち上げを経験後、HR Tech企業にて採用管理システムのデータ分析を推進。
現在はフリーランスとして、研修や人事施策の効果検証デザイン、データ分析、文筆等を行う。
「働く」という人間の営みにデータや学術研究の知見を活かしたいと考え、「才能」の切り口から新たな知見の開発・発信を行なうため、TALENTの才能研究に参画。

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