株式会社TALENTのTalent Research Center (TRC) では、才能発揮のメカニズムや条件を研究しています。過去18回の研究コラムでは、個人の才能発揮に関わる要因や、組織でできる施策などについて、学術研究や理論を紹介してきました。TALENTではこれらのリサーチやサーベイの結果をもとに、個人の才能発揮と組織の成果を高めるプログラムを開発・提供しています。今回からの研究コラムでは、TALENTのプログラム設計の背景や効果を、学術的な知見と対応させつつ紹介していきます。
目次
What ? 〜何を研究しているか?〜
How ? 〜どう研究しているか?〜
Why ? 〜なぜ研究しているか?
Future prospects: これからの展開
文献
What ? 〜何を研究しているか?〜
TRCでは、才能を「根源的な欲求に動機づけられた、自分が価値があると認めている行動や思考」と定義して研究を進めています。
より日常的な言葉だと、「ついついやってしまい、やってよかったと思えること」といった表現ができます。
こうした定義にも表れているように、TALENTが考える才能は単なるスキルや能力のことではありません。その人自身の根源的な欲求が起点となっており、本人が価値を認めているからこそ、自発的に継続できる行動や思考を指します。
このような才能発揮を促すことで、個人が仕事をするうえでの幸福感やパフォーマンスを高め、結果的に組織としての成果も高めることを目指しています。
才能研究の出発点として、才能発揮とはどのような状態なのか、その状態を構成する要素には何があるかといった問いを設定し、構成要素のモデルとアセスメントツールの開発を進めてきました。
現在は、才能発揮が組織やチームの成果に与える影響と、そのプロセスを明らかにする研究を進めています。個人と集団が相互に影響しあっているという観点から、チームとして個人の才能発揮を促進し、それが結果的にチームの成果につながるというメカニズムを明らかにすることで、そのポジティブなサイクルの初動をつくり、強化するためのプログラムの開発に応用しています。
How ? 〜どう研究しているか?〜
TRCでは才能発揮のメカニズムと組織成果との関連について、以下の才能発揮プロセスモデルを仮説として置いています。

モデルの中核をなすのが、「X軸: 欲求と行動の一致度」「Y軸: 期待する結果と実際の結果の一致度」「Z軸: 社会的評価」の3つの軸で捉えられる才能発揮状態です。各軸がよく実現されているほど、個人の才能が発揮されている状態といえます。詳細は以下の関連記事をご参照ください。
この才能発揮には、いくつかの促進要因があります。たとえば、一緒に仕事をするチームの心理的安全性などです。
関連記事: 才能発揮、個人から見るか集団から見るか #研究コラムVol .14
そして才能発揮は、個人・組織それぞれのアウトカムへと影響します。個人アウトカムは仕事への幸福感とパフォーマンス向上です。組織については、売上をはじめとする組織成果の向上を想定しています。
個人の才能発揮から組織アウトカムからの接続には、2通りの経路が想定されます。ひとつは、個人のパフォーマンス向上の結果として、その集合である組織のパフォーマンスが上がるという経路です。
もうひとつは、協力行動の促進を中間変数として挟んだ経路です。この背景には、各個人が自身の才能についての自己理解を深め、相互に開示しあうことで、メンバー同士の相互理解が実現し、結果として協力行動が促される「才能共有プロセス」を想定しています。そして、メンバー同士の協力行動は組織としての成果を高めると予想されます。
関連記事: 組織のつながりを育てるには #研究コラムVol .15
それぞれの関係の詳細や検証結果については、今後の研究コラムで紹介していく予定です。
こうしたメカニズムを想定したうえで、TALENTでは促進要因、才能発揮、才能共有を強化するプログラムを中心に展開しています。
Why ? 〜なぜ研究しているか?
TALENTの才能研究の究極的な目的は、仕事における個人の幸福感とパフォーマンスの両方を高めることです。
ウェルビーイングやワーク・エンゲイジメントといった概念とも関連する仕事の幸福感や、パフォーマンスを高める方法には、HR領域をはじめとする各分野でさまざまな介入施策が提案されています。
しかし、結果として期待される幸福感・パフォーマンスと介入施策の間には直接的な接続が見えにくく、効果が実感されにくいというマネジメント現場の声も多く聞きます。その理由として、幸福感が抽象度の高い概念であることや、パフォーマンスへの影響要因が無数にあり、それらの要因が複雑に影響しあっていることが想定されます。施策を実施したとしても、エンゲイジメント変化とのつながりが見えにくかったり、パフォーマンスに影響する他の要因(業務量の増加など)に埋もれてしまったりすることも多いのではないでしょうか。
こうした課題を乗り越えて仕事における幸福度とパフォーマンスを高めるために、「才能」という概念が有力であると考えています。それは、才能には「改善に向けた具体的な行動やToDoに落とし込みやすいため、個人や組織で実践しやすい」という特徴があるためです。
TALENTが提唱する才能がこうした実践的な特徴を備えているのは、以下の2つの要素があるためです。
ひとつは、自身の才能発揮には何が不足しているかを診断できることです。
先のモデル図のところでも触れたように、主要な構成要素としてX, Y, Zの3軸を設定し、それぞれを評価できるアセスメントツールを開発しています。たとえばアセスメントの結果、「X軸: 欲求と行動の一致」が不足しているようであれば、欲求への自己理解を深める施策や、欲求に近づける方向に仕事を工夫する「ジョブ・クラフティング」を促す施策が有効となります。TALENTでは、こうした現状と才能発揮状態のギャップを埋めるプログラムを開発しており、実際にプログラム前後でのアセスメントの結果、才能発揮状態に近づく変化を確認しています。
関連記事: 才能発揮できる環境を自らつくりあげるには #研究コラムVol .13
実践的な特徴を支える要素のもうひとつは、コミュニケーションの取り方という具体的な技法を通じて、個人の才能発揮の土台をチームで整備できることです。
モデル図でも触れたように、才能発揮には心理的安全性をはじめとするチームの状態が促進要因となっているという知見が、これまでのTALENTの実践から蓄積されています。このチームの状態、特にコミュニケーションの状態を、具体的なスキルや技法を通じて改善することで、才能発揮が促進されます。つまり、具体的な介入施策と効果が密接に連動しているのです。
こうした特徴があることから、「才能」概念は個人やチームの幸福度とパフォーマンスを改善するうえで有力なものと捉えています。
Future prospects: これからの展開
今後の研究では、才能発揮と組織アウトカムとの接続について検証を進めていくことが重要となります。
研修効果や人材開発の効果測定では、反応・学習・行動・業績の4段階に分けて評価するカークパトリックモデル (Kirkpatrick, 1959) が知られています。これらのうち最もレベルの高い行動変容や業績向上まで検討している企業は少数ですが、才能発揮プロセスモデルで想定しているように、チーム内の協力行動を中間変数として測定することで、具体的な分析が可能になると考えています。
今後の記事で、メカニズムの詳細や検証結果、具体的なプログラムとの接続などの研究成果について紹介する予定です。才能研究の今後に引き続きご期待ください。
文献
Kirkpatrick, D. L. (1959). Techniques for Evaluation Training Programs. Journal of the American Society of Training Directors, 13, 21-26.
▼この記事を書いた人
TRC Researcher 江川 伊織
山形県酒田市出身。東京大学大学院にて性格心理学を専攻、完全主義の認知特性を研究。ベンチャー企業にて、若手研究者のキャリア開発や、研究プロジェクトの立ち上げを経験後、HR Tech企業にて採用管理システムのデータ分析を推進。
現在はフリーランスとして、研修や人事施策の効果検証デザイン、データ分析、文筆等を行う。
「働く」という人間の営みにデータや学術研究の知見を活かしたいと考え、「才能」の切り口から新たな知見の開発・発信を行なうため、TALENTの才能研究に参画。
